ビジネス書作家としてヒット作を連発している水野俊哉氏の「幸福の商社、不幸のデパート」を読んだ。商社の仕事は好調だけどデパートは大変なのかな?そういう時勢ですよね~というイメージのタイトルだが、手に取って読み進めるとそんな話では全然ない。副題~僕が3億円の借金地獄で見た景色~が気になる…気になるじゃないか!ということで買ってすぐに読んでみたのでした。数ある上場企業は光の部分、しかし失敗者にこそ学べるところがきっと大きいはずです。
IPOの光と影、敗軍の将のリアルストーリー
水野氏は大学卒業後、金融機関に勤め、退職後に広告イベント系のベンチャーを企業。時はインターネットバブル全盛期。ライブドア(オン・ザ・エッジ)の堀江貴文氏やサイバーエージェントの藤田晋氏などが続々と上場を果たしていく時期です。当時、渋谷を中心とするITベンチャー界では上場の方程式のようなものが信じられており、借金をしまくって会社を大きくしてIPOにこぎつけるというやり方です。水野氏もひたすら拡大路線を追求し、なんと20行の金融機関から借金を重ねるまでになりました。
金と女はセット。VIPフロアでウハウハ!そしてお決まりの転落パターンへ
水野氏は成功を目指す途上で、世の中の格差というものをまざまざと見せつけられることになります。アパレルブランドや芸能プロダクションと提携して事業を行っていた水野氏はイベント会場のVIPフロア常連となりました。VIPサービスの特徴は眼下にイベント会場見下ろすフロアから好みの美女を調達し放題というオプションがついているのでヒャッハーです。まさに選ばれし人間という選民意識がくすぐられる仕掛けで、会場を見下ろしながら美女に両腕回して、「愚民どもが群がっておるわ!ガハハ」という気分に浸れる設計です。
さらにそのVIPフロアの中にも格差というものがあり、
有名な芸能人やアーティスト>年収1億レベルの社長>年収2000万レベルの社長>マスコミ関係者や医者>イベントサークル学生
という順に「権威」の格付けが存在したとのことです。ビジネス社会ではどこまでいっても格差があるんですね。
また、世の中には「社長マニア」と呼ばれる美女集団のクラスタが存在し、IT社長仲間とともに夜な夜なパーティーに繰り出す日々が始まります(わかりやすい!)。社長という負けず嫌いのところに餌を求める美女がたくさん絡んでくるということで社長同志の見栄の張り合い合戦が始まり、水野氏が一言、「もう大変です」(;'∀')ということであとはお察しください。
女性の中には就職活動が目当てだったり、個人スポンサー(愛人含む)を探している場合もあるということで、そういうパーティーで知り合ってもあまり真剣な交際にはつながらないということですが、きっと高層マンションの最上階から下界を眺めながら、ドレスアップした美女集団とワインを片手にくるくるしながら深夜まで談笑していたんでしょうね!中にはモデルや芸能人の卵などもたくさんいたでしょうね!
こんな話ばかりしても先に進めませんから次いきましょう、はい次。
くっそーーー!!
無理な成長を目指すと自転車操業に陥る明確な理由
さて、ここからがストーリーの真骨頂です。たとえ金まみれ欲まみれでもIPOが成功「すれば」良かったのですが、そうすればこれらの借金もすべて片付く「はず」だったのですが、世の中成功者は成功のストーリーを語りますが、失敗者は静かに消え去るのみですので失敗した時にどうなっていくかはあまり知られない事実です。
突き詰めて言うと、売り上げを上げるには借金して事業を拡大しなければならないというのが破綻の論理です。そして経費の増大に売り上げが追い付かないことが常態化すると、借金が雪だるま式に増えていくということです。
水野氏はイケイケのときは借金のプロであることすら自負していましたが業績が悪化することでたちまちそれは「足」を引っ張る要因となり、自らの「首」をなくしていくことになります。
世の中にはもはや返せなくなった借金まみれの会社がごまんとあるわけですから、水野氏だけが特別にイケイケのどんどんだったというわけではありません。会社を大きくするにはどこかで一勝負打たないと一生下請けから脱せられないという悲哀もあるわけです。勝負は打ってもいいと思うのですが、過信によるフルレバレッジ借金MAX勝負が滅亡への入り口でした。金運には器があると言われますがそういうことなのでしょう。完全にぶっ壊れたんですね。
無意識の破滅願望にあらがいながら生き残るには
歯車のどこかが狂っていくのですが、これ、気づかないそうですよ。あとから振り返ってもどこで間違えてそうなったかわからないそうです。ギャンブルで破滅を経験したことのある人ならきっとわかる感覚ですね。何かに操られているように破滅に向かっていくという。わたしもそういうことならいっぱい経験しましたので気持ちがよくわかります(笑)。絶対成功するはずと強大なエネルギーとありえない集中力で向かっていくのですが、何をどうやっても自己破滅に向かっていくだけなんですよね。
人は何かの衝動に操られる時期というものがあり自分を完全に見失うことがあるので、そんなときには要注意です。
悪運の強さはどんぞこで人を救ってくれます。いつ死んでもおかしくない状況が赤裸々に描かれていますが、すべてをなくしたところから運よく再生人に巡り合い3億円の借金を精算でき、地獄の一丁目から蘇ったあたりはさすがだなというところです。
ことの顛末がどういうふうに進んでいくのかを知りたい場合はぜひ本書『幸福の商社、不幸のデパート』を読んでみてください。なぜこのようなタイトルになったかという本当の意味も解ります。
誰もが経験できないことを、言いにくい恥ずかしい過去を、筆を執って伝えてくれる本当に面白い本です。水野氏はお金だけではなく心が救われた人になりました。今や別のステージで世界に貢献できるようになりました。人は失敗することから学ぶことが大きいと感じる、体験のシェアにありがとうという感謝の気持ちが出てくる、そんな本です。
0コメント